SPEAKS2 主張する
「すべての自閉症幼児に、週20時間以上のABAを。」
日本においても西洋先進国と同じようにABA・EIBIが受けられるよう国に働きかけを行います。
様々な発達障害の中でも、自閉症スペクトラム障害(ASD)(以下、単に「自閉症」とする)は、その人口の多さからも、障害の深刻さからも国際的に注目されています。
自閉症はおよそ50人に一人の割合で生まれます。社会性の障害(人の気持ちを推し量れない。協調性が乏しい、など)と限局した興味・行動(単調な行動を繰り返すなど)が特徴ですが、さらに約半数が知的障害を伴い、しばしば重度に及びます。幼児期には、目が合わない、言葉が出てこない、などから親が気づくことが多く、言葉の遅れは自閉症児に広く認められます(知的遅れのない高機能自閉症児の一部には言葉の遅れがない子どもたちもいます)。
特に知的障害を伴う自閉症児・者は、生涯にわたって社会的自立が困難であり、人とのコミュニケーションも難しいため、本人のみならず、家族にも社会にも重い負担がのしかかります。
自閉症の中核症状を改善させる医学的な治療法はいまのところ発見されていません。しかしある療育法が、知的遅れのある自閉症児の知能を向上させたり、社会性の障害を軽減するために有効であることが近年、海外の研究で分かってきました。それがABA(応用行動分析)です。
米国UCLAのロバース(O.I.Lovaas)博士が1987年に発表した研究によると、2-3才の自閉症児19人(うち17人が軽度から中度の知的障害を伴う)に対して、平均週40時間のABA個別療育を2年以上にわたって施したところ、その約半数(47%)にあたる9名が、小学校入学までに知的に正常域に達し(IQ80以上)、かつ自閉症の前歴を知らない学校当局者の手で小学校普通学級への付添いなしの入学を認められ、1年次を無事終了した、とのことです(1)。
このABA個別療育を早期にかつ集中的に施す、という方法は「早期集中行動介入(EIBI)」とも呼ばれ、その後も、多くの研究によってその顕著な改善効果が確認されてきました。これまでの研究では、比較群に比べて、知能指数などに統計上有意な改善をもたらすためには、おおむね週20時間以上のABA個別療育が必要であることが分かっています(2)。しかもこれらの研究の多くは、比較群を設けた、科学的エビデンスとしてのレベルが高いもので、多くのエビデンスレビューやそれに基づくガイドラインで、ABA(ABAと他の療育法を融合させた折衷的アプローチを含む)が自閉症に関してほとんど唯一の、エビデンスのある治療法として推奨されています(3)。
ABAが最も盛んな米国では1990年代後半から、主に親たちの働きかけによって、カリフォルニア州やNY州など一部の州で、ABA・EIBIを公費で実施する動きが始まりました。私たちが2000年代前半にロサンジェルスやサンフランシスコを視察した際には、おおむね週10~20時間程度のABA個別療育が公費で実施されていました。
カナダでは米国にやや遅れて2000年代初頭から、ABA・EIBIの公費実施がスタートしました。その一つ、オンタリオ州では、2000年から全州規模でのIBIが開始され、比較的症状が顕著な自閉症児に対しては、週20~40時間のABAが無償で実施されることになりました(4)。
その後、米国では財政に余裕のない州から、ABA早期集中療育の重い財政負担を民間医療保険に肩代わりさせる動きが始まり、もともとABAを公費実施していたカリフォルニア州などもその動きに追随しました。今日では(2018年現在)、全米46の州で、自閉症治療を医療保険の対象とする州立法が成立し、その大多数で、保険給付の対象となる治療法としてABAを明記しています(5)。
このようにABA先進国である米国やカナダでは、自閉症の子どもたちが、無償ないし低い自己負担で、ABA個別療育が受けられる制度が整えられているのです。
それに対して、日本はどうでしょう。わが国ではABAは全く医療保険や公費援助の対象となっていません。より正確に言えば、わが国の自閉症を含む発達障害・知的障害児に対する早期療育のシステムでは、一定の要件を満たして児童発達支援事業所として自治体に認可されれば、どんな療育法を取ろうとも、広く浅く、公費が提供されます。その制度を利用して、昨今、ABAを行う児童発達支援事業所が増えているのも事実ですが、そこで提供されるABAは、制度上の制約から、せいぜい週1~2回、一回1時間程度の個別療育に留まります。これでは科学的に改善効果が実証された週20時間以上のEIBIには遠く及びません。
また現在のわが国の制度では、児童発達支援事業所が採用している療育法が、科学的なエビデンスのないものであっても(ABA以外のほとんどの療育法がエビデンスを出していません)、エビデンスのあるABAと全く同列に、公費を提供されています。これは大変な税金の無駄遣いであり、また自閉症の子どもたちから、貴重な症状改善の機会を奪うものではないでしょうか。
そこで私たちは、わが国でも、知的障害を伴うすべての自閉症児に対して、週20時間以上のABA個別療育を公費で実施することを求めて、国への働きかけを行っています。最近では、2018年に厚労省に要望書を提出し、翌年に回答を受け取りました。それは「ABAが有効であるとの研究が海外で行われていることは承知しているが、国内での検証が不十分なことなどから、わが国で実施することは時期尚早」というものでした。
私たちは、もちろんこの回答に満足せず、これからもABA・EIBIのわが国での公費化を目指して、粘り強く運動を続けていくつもりです。
この運動が実を結ぶためには、まず幼い自閉症の子どもを持つ親御さんたちの参加が不可欠です。ぜひ私たちの会に参加して、国・政治家・行政に対して、声を上げて下さい。
またこの運動が実を結ぶためには、医師を始め、医療、福祉、療育関係者、さらにはABAの専門家の賛同が不可欠です。どうか、私たちの運動に参加してください。
参考文献
(1)Lovaas, O. I., (1987) Behavioral treatment and normal educational and intellectual functioning in young autistic children, Journal of Consulting and Clinical Psychology, 55,1.3-9.
(2)Vismara, L. A., & Rogers, S. J., (2010) Behavioral treatments in autism spectrum disorder: what we know?, Annual Review of Clinical Psychology, 6, 447-468. Smith, T., (2012) Evolution of research on interventions for individuals with autism spectrum disorders: implications for behavior analysts, The Behavior Analyst, 35, 101-113.
(3)一例を挙げれば、ニューヨーク州保健省の自閉症幼児診断治療ガイドラインでは、週20時間以上のABAが推奨されています。New York Department of Health Early Intervention Program, (2000) Clinical Practice Guideline: Report of the Recommendations. Autism/Pervasive Developmental Disorders, Assessment and Intervention for Young Children (Age 0-3 Years).
(4)Perry, A., et al, (2008) Effectiveness of intensive behavioral intervention in a large, community-based program, Research in Autism Spectrum Disorders, 2, 621-642.
(5)全米州立法会議のまとめによる。http://www.ncsl.org/research/health/autism-and-insurance-coverage-state-laws.aspx。